あひるの仔に天使の羽根を
「お前が"生かされた"意味、考えろよ。陽斗はお前を死なせたい為に、そんな姿になったんじゃねえ。あいつの意思を汲み取れ」
――芹霞ちゃんよー。
「でもそれなら陽斗はあまりに――」
「これはな、人生がどうの過去がどうの未来がどうのとかいう問題じゃねえんだ。"男"の矜持の問題だ」
「……」
「あいつ――笑って逝ったんだよ」
「……」
「憎い紫堂の面々を前にして、あのムカつく"ぎゃはぎゃは"ではなく、初めて穏やかに笑いながら…"ありがとう"って深く頭下げたんだ。そんな笑い方をする奴が、お前恨んでいるわけねえだろッ!!!
あいつはお前と同時に、"男"の矜持を守ったんだ。
誰もあいつを否定する権利はねえ。
そんなこと俺がさせねえよ。例えお前でもな」
涙が止まらない。
そんなあたしを煌は、あやすようにぽんぽんと背中を叩いていてくれた。
「皆、お前を生かせたくて必死なんだよ。
だから――簡単に死ぬなんて言うな」
あたしより陽斗を理解しているのがちょっぴり悔しいけれど、煌がいつものお馬鹿と口下手を返上して懸命に紡いだ言葉は、不思議にすんなりとあたしの心に響いた。
何だかいつもは手間のかかる息子か弟みたいな煌が、頼り甲斐のある年長者のように大きく見えて、心で苦笑せざるをえない。
8年間、直接拳と拳で語り合ってきた煌も、やはりそれなりにいい方に成長し、知らず頼もしくなっていたんだと思えば、何だか嬉しい半面寂しく思えて。
それでもこいつは、櫂のような劇的な変化であたしを置いていきはしないという、妙な安心感もあるのは事実で。