あひるの仔に天使の羽根を
「判らねえ。俺、無我夢中でアレからお前奪い取って逃げてきたら、ここに行き着いたんだ。ここ出た先は、例の石の扉かアレの処に逆戻りしかねえよ。アレも俺達を追いかける気もねえらしいし、お前意識戻さねえし、仕方が無く此処に一時避難」
「は? アレって?」
すると煌は、思い出すのも不快というように思い切り顔を顰めた。
「アレだよ、アレ。黒いぬめぬめした化け物」
「え?」
「お前……見てないのか?」
「陽斗のことで頭一杯でぼおっとしながらふらふらして歩いたのは記憶あるんだけれど、意識はっきりした時にはあんたがいた感じ」
「……お前、食われる寸前だったんだぞ?」
「く、食われる? へ? 何に?」
「だから、アレだって!!! お前のこと呼んでたんだぞ、"せり"って」
「!!!」
背筋に激しい悪寒が走る。
「な、何よ、どうしてあたしが化け物にそんな風に呼ばれないといけないのよ。化け物の知り合いなんているわけないじゃない」
「知らねえよ、俺だって」
――例え羽根がなくても、お姉さんの血肉が"生き神様"の力の糧となるのなら、陽斗も少しは報われるんじゃない?
「もしや――"生き神様"?」
その名称に、悲しくも煌は同調してきて。
「……多分、な」
更に冷たいものが背筋を這い上がる。
「か、神様がどうして化け物!? ね、ねえ、どうして煌!!?」
「俺が知るかって。邪教が蔓延してんじゃねえか、此処は」
「え、でも十字架で神父で……基督教…」
「……の真似した胡散臭いのだろうよ……って、おい、芹霞ッ!!! な、なな何で俺に突然ぎゅうすんだよッ!!!?」
煌のひっくり返った声が響き渡った。