あひるの仔に天使の羽根を
その見事な赤さは顔だけではなく、首筋やちらりと見える鎖骨にまで及び、それがほかほかあったかそうで。
あたしのぶるぶるは、煌の赤さで解消できるかもしれない。
だからあたしは躊躇うことなく煌の足の間にすっぽりと埋もり、そして煌の胸板に背を凭れて、王座に付いた女王様のようにご満悦の笑みを浮かべた。
「あ~、ぬくぬく。結構いいね、これ」
突き落とされた時にぶつけたのか、背中とお尻が打撲の痛みを訴えるけど、このぬくぬくで温熱治療が出来そうだ。
一瞬、あたしが鼻をかんだ部分が背中にあたるんじゃないかと思ったけど、きっと体熱で乾燥するに違いないから、考えないようにした。
「……」
「ねえ、これからどうしようか」
「……」
「この先が石の扉なら、櫂がいないなら開くことはないし」
「……」
「戻って、その変な化け物に襲われても嫌だし」
「……」
「そういえば、玲くんは此処を通ったんだろうか?」
「……」
「まさか食べられちゃったり、してないよね!!?」
振り仰げば、煌が苦しそうな顔をして目を瞑っていて。
意外に長い睫がぷるぷると小刻みに揺れている。
「……煌?」
「……」
「寝ちゃったの? 具合悪いの? ねえ?」
ゆさゆさと膝を揺すれば、
「……違うって!!!」
苛立たしげな褐色の瞳がこっちを向いた。
「元気ならいいんだけれどさ、ねえ…玲くんの姿はその化け物のトコにはなかったよね、玲くん大丈夫だよね?」
「……」
「玲くん強いから何かあっても切り抜けられるよね? だけど玲くん凄く綺麗な顔してるから、化け物だって簡単に諦めないんじゃ……」
再び顔を見上げて不安を訴えれば、至極不機嫌そうな顔が横に向いていて。
「人の気も知らずに、玲、玲って……」
何やらぶつぶつと声が聞こえてきて。
「何か言った?」
「何でもねえよ!!!」
あらま。
煌の機嫌が悪い。