あひるの仔に天使の羽根を
 
煌が何かを言おうとしているのは判るけれど、詰まったように言葉は続かず。


いや、何かを言っているのかも知れない。


小さくて聞き取れないだけかも知れない。


あたしは真っ赤な顔でうんうん唸る声の口許に耳を寄せると、



ぱくり。




「――ひゃん!!?」




耳を甘噛みされた。



思わず変な声を出して後ろに尻餅をついたあたしに、煌はにやりと笑った。


「へえ、お前耳弱いんだ?」



そしてあたしの手を取り引っ張りあげながら、



ちゅ。



あたしの首筋に熱い唇を寄せ、吸い付いた。


チクリとした痛みより何より、背筋に走り抜けた電気のような痺れに、思わず漏れた鼻にかかったような甘ったるい声。



「すげえ、イイ声」



嬉しそうに、同時に余裕ぶったその態度。


そして。


それまでの煌らしからぬ大人びた…艶然とした表情に、獲物に狙いを定めた獰猛な動物のような眼差しに、一瞬だけぞくりとした妙な興奮を覚えてしまって。


見覚えある。


これは煌の色気。


こちらの壁を破壊するような、一方的に迸る――強い色気。


このままだと流される気がした。


2ヶ月前のように、煌ととんでもないことをやらかすような危険を覚えた。


「だから!!! あたしを香水女と同じに扱わないでって!!」


先に牽制するように、睨み付けて立ち上がったあたしに、煌は急に真面目な顔つきをした。


恐いくらいの"男"の表情で。

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