あひるの仔に天使の羽根を
だが。
何と言われようが、俺の心は揺らぎなく。
否――揺れているからこそ、頑なで。
「遠坂。お前が何と言おうが俺は芹霞を迎えに行く。
俺は今、あいつと離れている余裕はない。
後のことは後で考える」
「……ふう。結局のトコは神崎か。何につけても神崎1番なのもいいけどさ、そろそろ神崎の意思を汲み取らないと、そっぽむかれちゃうよ、紫堂」
遠坂は、溜息混じりにそう言った。
「芹霞の意思?」
――離れていよう?
そんな不条理なこと、俺は認めない。
「紫堂はね、押し付けがましいんだよ」
「え?」
「"自分は神崎の為に身を砕いている"。
だけど発端は、神崎を手に入れたいという単純明快な自分の欲望の為だけだろ? それを神崎に責任転嫁して押し付けて、"だから当然自分のものになるべきだ"と縛ろうとするなんて、自分勝手すぎやしないかい?」
「……」
俺は目を細めた。
自分勝手?
「キミの自信と叡智は人並ならぬ努力の賜物かもしれないよ? だけど君、神崎目の前にすると、余裕がなくなるのか俺様主義で頭がっちがちになるだろ? その上にオトメゴコロ判らない鈍チンだし。
どうせ思ってるんだろ? 神崎から君が満足する心が返るまで、どんなことをしても自分の気持ちを理解させてやるって。神崎が何を思っているのか、理解しようともせず」
「!!」
「そんなことじゃ、神崎は逃げ続けるよ?」
「な!!」
「君にとっての理解って何? 君が神崎にしようとしていることは、ただの押し付け、ただのごり押し。報われない可哀想な自分に酔って同情されたいだけ。そんな君が今しようとしてることはただひたすら自分の正当性を主張するだけだろ。
そんなのが君が願う"理解"で、それで神崎を手に入れると君は思ってるわけ?」
――"芹霞に坊の全てを判らせろ"
「ねえ、君ってどんな奴さ? 押し付けがましい自分勝手な奴で完結させていいの? 偏面しか見せなくて"判らせる"ことになるの? そんな一方通行、"理解"っていえるの? 神崎が"理解"出来ると思うの?」