あひるの仔に天使の羽根を


「紫堂の周りには、マゾばかりが類友で集っているけど、自分の弱味を知った上で昇華しようともがく師匠や如月の方が、よっぽど神崎と同じ目線で神崎を理解しようとしてて、ボクが神崎なら紫堂より親近感覚えるね。

"自分"を押し付ける男と、神崎を理解しようとする男。"絆"や"人情"を大事にしようとする神崎にとって、どちらを好意的に捉えると思う?

冷静になって考えてみろよ、紫堂」


喉がひりついて、言葉が出ない。



「恋愛は主従じゃない、対等だ。

師匠や如月、葉山にさえ、よく理解してその心を大切に出来るくせに、どうして神崎に関してはそうムキになるのかね?

迎合という譲歩も必要だぞ?」



衝撃。



「紫堂は、神崎と一番付き合い古いことに胡坐掻きすぎ。恋する心には共に居た時間なんて、強みにはなっても決定的な要因にはならないぞ?

それは寧ろ――ただの自己満足なだけだから」


ぐさり、と心臓に突き刺さる。


「神崎にとって紫堂の次期当主の姿は神様みたいな存在だ。口では永遠だ何だ言ってても、君に1歩退く理由が"君を穢したくないから"なんて馬鹿なこと考えるような奴だってこと、紫堂なら判っているはずじゃないのか?」


呼吸が苦しい。



「神崎と君の距離、いつまでたっても詰めれない原因は、君の態度も問題じゃないのかい?」


反論の余地すらない。


「今、神崎に一方的に気持ち押し付けた処で、紫堂がその態度を改めなきゃ同じことの繰り返すだけ。平行線ばっかのやり取りで、根気負けして簡単に折れる神崎だと思う?」



俺は――拳を握り締めた。


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