あひるの仔に天使の羽根を
 


「神崎を手にいれられるかどうかは紫堂次第。

ああ塩を送ったことは、師匠に内緒ね。ボクはぞっこん師匠派だから」


そう、遠坂はにんまりと笑った。


こうまで恋敵の肩を持たれてアドバイスを受けるとは、何とも複雑な気分だ。


「さっき葉山を庇って須臾嬢を撥ね付けたろ? それに感動したからさ。特別サービス」


「お前は……恋をしたことがあるのか?」


男女の機知に詳しいのならば。


すると遠坂は傍目でもはっきり判るくらいに、あからさまな反応を示した。


「どどど…どうして!!?」


「俺よりよっぽど、"恋愛"に詳しいから」


「そ、そそそそれは一般論で」


絶対嘘だ。


「今、嘘だって思ったろ!!?」


俺は頷いた。


「ああもう~、紫堂は誤魔化しきかなくて本当嫌だよッ!!! だからキミは苦手なのにさ~。……。……過去の話だからッ!!! ボクも昔、不毛すぎる恋をしてその辛さ知っているから、捨て猫みたいな目されると放っておけないんだ!!!」


「……俺の現状が不毛で、俺は捨てられているといいたいわけか?」


「ひいっ!!? そんな睨みきかすな、紫堂!!! 言葉のアヤってもんだ!!!」



俺の世界は常に紫堂で。


一般世界に居るのは芹霞だけだったから。


たまにはこんな会話をする人間が居るのもいいものだと、


俺はそれを悟られないよう静かに笑った。


今俺に出来ること。


此処に居るからこそ出来る何かがあるはず。


俺は――


此処にいつまでも縛られるわけにはいかない。


意味があって縛られているとしたら。


俺はまだその正体を掴み切れていないから。


全てを失いそうな悪い予感を


俺は故意的に見過ごした。



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