あひるの仔に天使の羽根を
「存在自体が禁忌となってしまうような、そんな薬なんて赦したくない」
「禁忌?」
思い詰めたような千歳に問い返した時、千歳ははっとしたような顔つきになり、ごめんなさいと謝ることでその話題を却下しようとした。
――話してないのに話進めたら、あいつみたいになっちゃうよ。
「それは……"刹那"、か?」
――"刹那"みたいにさ。
瞬間。
千歳の目が大きく見開かれ、やがて恐怖を体現したかのような激しい揺れを目で表現した。
「その名前は、この土地では口にされませんよう……」
青ざめたその顔に。
「……お前の兄は、平気で口にしていたぞ?」
笑いながら少しでも場を和ませようとすれば、
「兄さんは――特別ですから」
それ以上の説明を拒んだ。
そして、
「紫堂さんは、兄さんが嫌いですか?」
反対にそう問いかけられた。
「……少なくとも、好きではない」
本当は大嫌いだと断言したかったけれど。
さすがに優しい弟の前でそれは憚(はばか)られた。
俺に質問してきたその目には、
「兄さんは誤解されやすい人ですけれど、本当は凄く優しい兄なんです。どうか嫌わないで下さい」
兄を慕う強い情が感じられたから。