あひるの仔に天使の羽根を
「聡明で優しく美しく。昔は誰からも愛される兄でした。今の姿は仮の姿。僕は信じているんです」
「……何故、変わったんだ?」
「判りません。突然変わってしまったんです、13年前に」
13年前。
俺が芹霞と出会う前に。
――"せり"って呼ぶの赦されてる?
「柾叔父さんや母さんは兄さんを忌み嫌い、姉さんを兄さんに近づけまいと棟に姉さんを放り込んでしまった。本当は、儀式の時が来るまでずっと監禁しておくつもりだったんです。ありえないでしょう? 僕達家族ですよ? それでなくとも姉さんは、儀式がすめばずっと"生き神様"の元にいるわけで、家族と……僕と過ごせる時期は限られている。姉さんともう会えなくなるのは耐えられない。だから僕は母さんを毎日説得し続け、ようやく日中だけは、各務家との行き来に許可貰ったんです」
「姉が……好きなんだな?」
「姉さんも、兄さんも、僕の憧れなんです」
そう、千歳は顔を赤らめた。
「僕は……2人みたいに綺麗な顔つきではない。この大きな鼻! それがずっとコンプレックスで。だけど兄さんも姉さんも美しい」
陶酔する顔は、恋慕にも似た"美"への執着。
確かに、千歳と久遠では、全く血の繋がりがないと言っても違和感がない程、似ていない。
「だけど僕、2人から嫌われているようで、あまり口を利いて貰えないばかりか、姉さんに限っては話しかけて貰ったことがない。……僕は醜いから」
そう項垂れた千歳。
「おまけに誰が各務家を継ぐとか継がないとか、そんなどうでもいいことを柾叔父さんが母さんともめてていて、だから尚更のこと、僕と兄さんは対立したような図式になってしまい、気軽に話しかけられることも難しくなってしまって」
「お前は各務を継ぐ気はないのか?」
すると千歳はこっくりと頷いた。