あひるの仔に天使の羽根を
「興味はないです。そういうのは、出来る人が……兄さんがやればいい。僕は人に誇れる部分は何もないし、昔から兄さんが継ぐべきだと思っていたし」
つまりは。
宴の時に感じた、後継者争いは当人以外が騒いでいるだけらしい。
しかし幾ら次男にやる気がないと言っても、長男があんな様子であれば、各務家の未来はお先真っ暗だ。
まあ、俺には各務などどうでもいいけれど。
その時、ノックの音が響いた。
「失礼します、朝食をお持ちいたしました」
それは銀のカートに朝食を乗せて運んできた荏原だった。
「あ、千歳様。柾様が書斎にてお呼びでございます」
「叔父さんが?」
「はい。何でも至急にと」
千歳は何だろうと首を捻りながら、退室した。
「……朝食は、一緒でなくてもいいのか?」
部屋に手早くテーブルを用意してサンドイッチを並べる荏原に、そう皮肉気に問いかけると、
「各務家の皆様は、朝食はお食べになりませんので」
何でもないというように返された。
「当主もか?」
「はい。樒様はこの時間は、"懺悔"のお時間となっています。それは各務当主であればせねばならない重要なお勤め。それが終わられてから、お食べになられる場合もありますが」
淡々と語る。
荏原は決して寡黙ではないが、饒舌ではない。
年の功というか、口に出す言葉に何か意味があるように思えるのは勘ぐり過ぎなのだろうか。