あひるの仔に天使の羽根を
「そういえば、俺以外の来賓客は? まだあのゲスト用の棟に?」
「ご来賓の皆様はこちら本家にも、最初にお通しした棟にもいらっしゃいません。式典が開催されると同時に、"境界闘技場(ホロスコロッシアム)"に用意されている客室に宿泊拠点をお移りになられております。元より決定事項のことで」
「式典の場所に? 昨日で終わったんだろう?」
訝しげにそう問えば、
「セレモニー的な開会式は終わりましたが、それから暫しの間、"境界闘技場(ホロスコロッシアム)"では外部からのモニター様による試験的戦闘遊戯による勝敗がつくまで、事実上の式典というものは続行されます」
とぽとぽとポットからカップに琥珀色の紅茶を注ぎながら、やはり淡々と表情を変えずに答える。
香しき茶葉の匂い。
銘柄は良質なアッサムだろう。
「じゃあ俺も此処にいてはいけないだろう?」
遠回しに、軟禁状態を解けと言えば一笑される。
「来賓客の中でも紫堂様は"選ばれた"特別な方ですし、何より樒様のご意向で、紫堂様は本家に滞在されて結構です」
"選ばれた"
「須臾――のことか?」
荏原は、無言になることで肯定した。
彼は、色々知っているのだろうか。
「それの持つ意味合いは何だ?」
「"聖痕(スティグマ)の巫子"が儀式を行う際には、"誓約"がございます」
「誓約?」
「"生き神様"に仕える一生を、巫子が現状で一番大切に思うものに誓うという、聖なる儀式がなされて、初めて巫子たる儀式が完了するのです」
俺は目を細めた。