あひるの仔に天使の羽根を
「樒?」
間違いない。
樒が歩いている。
ここは各務の土地だ。
当主が自由に歩いているのは咎められるべき事象ではないのだが、俺にはその姿が人目を気にしているように思えて妙に気になって。
荏原は今、"懺悔"の時間で当主として重要な勤め中だと言っていた。
その割には、その動きは不可解さが残る不審なもので。
横柄にも感じる程毅然としすぎているいつもとは違い、誰にも見つからないよう、慎重に気を配っているような雰囲気で。
「……」
そして。
樒はある処で立ち止まり、ぐるりと周囲を様子を窺うと身を屈め――忽然とその姿を俺の視界から消した。
「!!?!」
それは一種の、予感めいた確信だったのかもしれない。
樒が消えた先に、俺の現状打破出来るだけの旨い材料がある、と。
俺は――
反射的に部屋を出た。