あひるの仔に天使の羽根を

・同化 煌Side

 煌Side
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暗闇に足音だけが響く中、俺は黙って芹霞の手を引いて歩いている。


ムードの欠片1つない。


近くに人間を食う化け物が居て。


その屍の山があって。


魚の腐ったような、血生臭い悪臭が充満していて。


所々ある無数の鉄製の扉があるものは、どうみても監獄にしか見えねえ。


内部の外壁には、血糊が乾いた茶色い跡があって。


苦悶を示す手形すらある。


これから玲のトコに行くのに、櫂があんな状況なのに。


そんな中でよりによって告ってしまった俺は、状況判断すら出来ねえ救いようない馬鹿かも知れねえ。


桜が居たら、脳天直撃の回し蹴りもんだ。



だけど不思議と悔いだけはなく、こんなに気持ちよくすっきりとなるくらいなら、どうして自分の気持ちに気づいた時点で、早く言わなかったのかと自嘲したい気分だ。


言葉に出すまでは長く、出そうと思ってからも言葉が出てこなくて、もどかしくて苦しくて仕方が無かったけれど。


結局伝えたいのは、"好きだ"の3文字のみなのに、その3文字が出るまでに、随分と精魂尽き果ててしまった気さえする。


やっぱり俺はヘタレだ。



芹霞はあれ以降黙ってしまって、何1つ応答は無い。


櫂のこともある。


俺と同様な心が返ると期待はしてなかったからまだショックは少ないけれど、それどもやはり一方通行ってのは、欲張りな心ばかりを育てるみたいで。


判ったのならもっと意識しろよ。


判ったのならもっと俺に近寄れよ。


判ったのなら俺を好きになれよ。



王様のような不遜な心が大きくなってしまった気がする。
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