あひるの仔に天使の羽根を


「……煌?」



芹霞が心配そうな顔をして、やはり一緒にしゃがみこんだ。



「どっか具合悪い?」



俯いている俺に、視線が投げられている。


俺はぶんぶんと頭を横に振った。


「そう? じゃあいいか」


立ち上がろうとした気配に、俺は無意識に手を伸ばしてぎゅうをした。


「こ、煌!!?」


「……」


「こ、こら離しなさいってば!!」


「……」


芹霞はぎゅうが好きなくせに。



「早く、抜け道探そうってば!!」



ばたばた慌てる芹霞が可愛くて。



「……好きだ」


自分の熱さに掠れる俺の声。


告った時は、言葉が出てこなくて苦労したけれど、今度は呼吸のようにすんなりと出てきた。


やっぱり俺は状況判断が出来ねえのかも知れないけれど、一度箍(たが)を外した心は、止めることが難しいことを初めて知る。


言霊の効果なんだろうか。


言わずにいた時よりも、言ってしまってからの方が膨らむ思いは大きくなって。


俺が望む"甘い世界"に引きずり込みたくなる。


此処が何処でも関係ねえ。



俺って、かなりべた甘な奴なんだろうか。



"漢(おとこ)"にとって"女"はあくまで補助的役割しかない、そう思っていた昔の自分に教えてやりたい。


"漢(おとこ)"たるものは女を惑わしても、惑わされていけない。


"漢(おとこ)"たるものはいつも毅然としていなければならない。


俺はハードボイルドな"漢(おとこ)"に憧れていたはずなのに、その延長上に居る今の俺は、芹霞に思い切り惑わされていることに悦びを感じて、芹霞ならば全財産つぎ込んで貢いでもいいとさえ思っている。


ただ心を傅(かしず)くのは櫂だけに。


それが"漢(おとこ)"としての俺の矜持。



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