あひるの仔に天使の羽根を
緋狭さんは言っていた。
芹霞は道標だと。
"約束の地(カナン)"に足を踏み入れる前からの道標の過剰反応は、この先に待ち受けるものが安穏ではないことを物語っている。
更に、芹霞に向けられた刺客の憎悪。
――カナンに近づくな。
一体、何があるというのか。
「陽斗がね、騒ぐの。
近づくな、考えるなって。
ねえ、どうしても行かないといけないのかな、カナンっていう処に」
縋りつくような黒い瞳。
僕は押し黙った。
本音なら――。
芹霞の不安愁訴を取り除きたい。
だけど――。
「護るよ、芹霞」
「――……。
玲くん、嫌な予感がするの」
「今度こそは、僕が君を護るから」
芹霞の訴えを、横を向いて却下して。
僕には、平行線のようにそう答えるしかできない。
僕だって、感じている。
嫌な予感――。
何かが変わるような予感を――。