あひるの仔に天使の羽根を
『遠隔であればある程、腕輪の持ち主の感応力の強さだけが頼りなんだがな、どこぞの使えぬ馬鹿犬が激しく発情し続けて私の存在を無視してくれたおかげで、忙しい私がわざわざ譲歩し、距離を縮めてお前と接触したことについて、何か異論はあるか』
ううッ……。
『こちらも時間が余りない。お前の"らぶらぶ発情タイム"を邪魔させて貰うぞ』
らぶらぶ発情タイムって……。
『ほう、否定できる自制心があるのか、この駄犬。処女の上目遣いにころりとやられて簡単に手の平で転がされたくせに』
返す言葉もねえ……。
『まあ、私が芹霞に仕込んでいた"女の技"だがな。"上目遣いでねだれば、男はイチコロだ"とな。まさか初めて試した相手がお前とは思わなかったが、中々上手く使う。さすがは私の妹だ。それともお前が単純過ぎるのか』
!!!
緋狭姉仕込みだったのかよ!!?
人の純情、弄びやがって!!!
と思いながら、"純情"を心で封印した。
判る。
緋狭姉ならどう返すか判る。
『…ほう、成長したな、煌。折角香水女ネタに転じようと思ったのにな』
やっぱり。
俺が悪かったから、そのネタはもうやめてくれ!!!
『ふふふ。ではここはヘタレなお前が頑張ったご褒美に、私が引いてやろう。だから、さっさと玲と合流しろ』
「ちっ。……判ったよ」
そして緋狭姉の指示を心で聞き、交信が途絶えると同時に深い溜息をついてふと芹霞を見れば、
「煌、正気に返ってッッ!!」
気づけばまた芹霞が平手打ちの準備をしていて。
しかも何だ、過去最大のその大きな手の振り。
危険を感じて、伏せてかろうじてそれをよけた俺。
本当に芹霞は力加減を知らない女だ。
俺が素人なら、今頃この世に居ねえかも。