あひるの仔に天使の羽根を
俺は芹霞の手を引き、一緒に立ち上がって言った。
「お前が櫂の血染め石を使って石の扉を開け」
「ふへぇ!!?」
驚きすぎて固まる芹霞をずるずると引き摺り、俺は行き止まりだった例の石の扉の前に連れ出した。
馬鹿な俺は、緋狭姉が"距離を縮めた"と言った真意に気づかずに居て。
どんな場面をも覗き見れる変幻自在な緋狭姉の能力と、茶化さずにいられないとんでもねえ性格に、これから俺はどう弄られるのかと嘆いてばかりいて。
「煌!!! あたし櫂のような力はないよ?」
芹霞が及び腰で叫んだ。
「そんなこと判っているって。俺が導いてやる」
直前の緋狭姉の指示が蘇る。
『いいか、私の腕環…紅石によって闇石の力を膨張させれば、その力は馴染みある芹霞に幾分流れる。後はお前が私の腕環を扱ったような要領で、闇に芹霞が囚われぬよう気をつけてその力を導け。出来ないなど言い訳は聞かん。
私は忙しい。暫く連絡を絶つ』
相変わらずの、一方的な会話だったけれど。
目の前の石に刻まれた模様は、もう見慣れた不可解な幾何学模様。
簡単に言えば、"4"を指で作った図形。
腕環に櫂の血染め石を触れさせれば、櫂の闇石が淡い光を伴う。
「石が光るの……煌が危ない時にもあったよ。この後、結界が出来てあたし達を守ってくれて、櫂が現れたの」
その時も、腕環に触れることがあったんだろうか。
2ヶ月前。
櫂の力が暴走し、東京全体を破壊に導いた。
それを発現させ、抑えることが出来る櫂。
正直、紫堂の力なんてない俺が……緋狭姉の力をちょっとばかり弄ったことがあるだけの俺が、そんな櫂の力の一部を扱えるのか自信はないけれど。
緋狭姉の命令は絶対的だ。
どんなことがあってもやらなきゃなんねえ。