あひるの仔に天使の羽根を
 

現実的に八方塞だったんだろう。


俺の頭は確かに"らぶらぶ発情タイム"中で危機感がなかったけれど、緋狭姉がわざわざ接触を試みたということは、それだけの事態だということなんだ。



緋狭姉は。



どんな時でも、俺を見捨てないから。


だから俺は信じるんだ。


今も昔も。


俺は目を瞑り、光を広げる闇石に意識を集中させる。


表層から下層へ、更に深層へと意識を降下させていく。


そして。


うねる様な、渦巻くような巨大な力の流れを感じて、俺は震え上がった。


それは"混沌"というものだろう。


俺という主体がはっきりしている意識でさえ、その混沌の闇の前では無力で。


絶望のような圧倒的力の差異に膝をつきたくなる。


その吸引力は抜群で、言うなれば"ブラックホール"で。


"地獄"という形容も出来るかもしれねえ。


こんなものを櫂は平然と抱えているのかと思えば、俺と櫂の実力の違いをまざまざと見せ付けられたようで。


俺が、櫂の支配する闇にかき消されそうだ。


緋狭姉が、闇だけは操れないといった以前の言葉を思い出す。



それでも緋狭姉は、俺にやれと言った。


やらなきゃいけねえ。



俺は、自我を失わない程度に闇との同化を想起する。


気を抜けば、漆黒の闇に引き摺り込まれそうだ。
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