あひるの仔に天使の羽根を
たった数十秒でも煌にも衝撃が返るような力を、至極平然とばんばん使える櫂はもっと凄いんだろうけれど、煌でなくとも、櫂を対象に持ち出すこと自体、比較という図式は成り立たない気がする。
櫂がいなければ、煌も少しは自信を持てるはずだ。
――目を瞑って俺を感じろ。
――感じたら俺と同化しろ。
煌に言われるがまま、あたしと煌の同一化を強く思念したけれど、自分の身体の中にあたしじゃない何かの存在を感じたのは初体験。
あたしの思念だけではなく、煌からの思念も受け取って、絡み合い1つに溶け合った瞬間には、恐怖以上に高揚感を覚えた。
あたしがあたしであってあたしじゃない。
あたしは個体として認識出来るのに、それを覆うようなもっと大きい自分をも感じて。
それが煌という存在だったんだろうか。
安堵と同時の陶酔感。
耳ちゅうやらかした煌には忘れず制裁は加えたけれど、実際あんなこと長く続けられたら、抵抗する気力さえなくなりそうな恍惚感で。
そんな僅か数十秒の不思議体験で、石の扉が開いたのは驚愕半分、感激半分。
「さあ、玲くんの処に行こう」
あたしも何かの役に立てれたということで、更にあたしはご機嫌で。
そんな時。
石の扉を抜けて駆け上る階段で、ずきっという肌が引き攣ったような痛みを感じた。
心臓ではなく、表面の方だ。
――芹霞。手術が終わったからと言っても、雑菌が多い場所に長く居たり、無理して動きすぎないでね。傷開いたら、縫合し直しになるよ?
入院中、担当医たる玲くんに言われていた。