あひるの仔に天使の羽根を
思わずあたしは自分の胸を見てみる。
紫の服の上からだけれど、痛みを感じる…傷ある左胸が、腫れている気がする。
紫だから目立たないけれど……血が滲んでいるような。
布地越しに触ってみれば――右と比べて熱い気がする。
そして、触れると更に痛みが倍増して、思わず顔を顰めてしまった。
一度気にすると益々痛く感じてきて、呼吸が自ずと荒くなる。
「……あのさー」
そんな辛さを知らずして、煌が溜息のような小さい声を出した。
「……止めね?」
それは限りなく弱々しく。
「え?」
出口が近いらしい。
漏れる明かりから察するに、外は明け方近くになったのか。
逆光の煌の顔は何故か真っ赤で。
無言で指差された場所は、あたしの手が置かれている左胸で。
「お前……悪女だよな」
「は?」
「む、胸揉んで俺を誘うなってば!!!
乱した呼吸と苦しそうな顔が…
エロいんだって!!!」
この男――
「誰が誘うかッッッ!!!!
エロいのはお前だッッッ!!」
あたしは怒りを込めた鉄拳を、煌の鳩尾に叩き付けた。