あひるの仔に天使の羽根を
 

白ばんだ空の元、目にした外界は朽ち果てていた。


住居は建ち並んでいるけれど、それは風が吹けば飛んで行ってしまうような、最低限の古ぼけた仕切りに覆われた長屋続きの貧民窟(スラム)街。


明け方の時間帯に行き交う人影は見えないけれど、建物の隙間に挟まるようにして眠るボロ布を纏った姿もある。


一見ミイラのような、骨と皮しかない痩せ細った姿。


健常な街並みとは言い切れない。


いつの時代のものだよって突っ込みたくなる。


「此処……"中間領域(メリス)"だと思うか?」


煌は褐色の瞳を細めてあたしを見た。


「少なくとも"無知の森(アグノイア)"で襲いかかってきた奴らはもっと普通の服着てたし、俺平然と歩いていて神父が飛んでくる気配もねえし。

こっち方面に進んできて良かったのか?」


「んー、もっと"中間領域(メリス)"の情報聞いておけばよかったね」


想像していたのは神父と修道女ばかりが集う宗教街。


だが此処はどう見ても、浮浪者が集うような巣窟街。


「すげ~、この時代に井戸水、洗濯板だぞ?」


ひっそりとした街。


あたしと煌の砂利を踏む音がやけに大きく響き渡る。



そんな時だ。



「!!!」


煌が何かを見つけたようだ。



足を止めて身を屈め、地面から何かを拾って訝しげにそれを見ている。


小さなボタンのようだが……なにぶん背の高い煌の目線に、あたしの身長では同じものをよく見ることが出来ない。


背伸びしようとしたら、久遠にドアで挟まれた足が疼いた。


がっちがっちにテーピングをしたから今まで痛みを感じなかったけれど、足先だけに力を入れるようなことは控えた方がいいらしい。


本当に、あっちもこっちもぼろぼろらしい。


でもそんなことも言ってられない。


玲くんを探さないと。
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