あひるの仔に天使の羽根を
・逡巡 玲Side
玲Side
*********************
行けども行けども果てのない白銀の迷宮を、僕は彷徨っていた。
四方八方に拡がる鏡の迷路は、逡巡の色濃く流離(さすら)い続ける小さい僕が映っている。
どれが僕?
どれが偽物?
見分けがつかない曖昧な世界で、僕は必死に歩いて行く。
――さすがは玲様、文武両道で。
――これからの紫堂を担うのは、玲様しかおりますまい。
――眉目秀麗、誰からも愛される玲様は紫堂の誇りだ。
過去幾度も耳にした、亡者達の声が響いてくる。
ホントウノボクヲシラナイクセニ。
笑う、笑う、笑う。
その声を多く得る為に、僕は笑い続ける。
誰からも望まれるために、僕は愛される僕を演じ続ける。
何故?
答えは簡単。
"1人は寂しいから"
満たされることのない僕の心。
賞賛されれば逆に冷えていく僕の心。
ホントウノボクニキヅイテヨ。
"僕"を必要とされたかった。
どんな僕でも、僕だからという理由で欲して貰いたかった。
人間として、子供として、男として。
僕の中に流れるのは気狂いの血。
次期当主の肩書きを失い、権力を失った母親が呪言と呪われた血で櫂の就任式を穢した途端、一斉に僕に向けられた蔑んだ眼差し。
それまで僕に媚びへつらっていた者達が手のひらを返した。
気狂いを排除せよ。
危険分子を排除せよ。
紫堂の真の跡取りは別に居る。
僕は誰にも必要とされていなかった。
僕は全てを失った。
否。
何も手に入れていなかったことに気づいた。
地位も名誉も家族も愛さえも。
*********************
行けども行けども果てのない白銀の迷宮を、僕は彷徨っていた。
四方八方に拡がる鏡の迷路は、逡巡の色濃く流離(さすら)い続ける小さい僕が映っている。
どれが僕?
どれが偽物?
見分けがつかない曖昧な世界で、僕は必死に歩いて行く。
――さすがは玲様、文武両道で。
――これからの紫堂を担うのは、玲様しかおりますまい。
――眉目秀麗、誰からも愛される玲様は紫堂の誇りだ。
過去幾度も耳にした、亡者達の声が響いてくる。
ホントウノボクヲシラナイクセニ。
笑う、笑う、笑う。
その声を多く得る為に、僕は笑い続ける。
誰からも望まれるために、僕は愛される僕を演じ続ける。
何故?
答えは簡単。
"1人は寂しいから"
満たされることのない僕の心。
賞賛されれば逆に冷えていく僕の心。
ホントウノボクニキヅイテヨ。
"僕"を必要とされたかった。
どんな僕でも、僕だからという理由で欲して貰いたかった。
人間として、子供として、男として。
僕の中に流れるのは気狂いの血。
次期当主の肩書きを失い、権力を失った母親が呪言と呪われた血で櫂の就任式を穢した途端、一斉に僕に向けられた蔑んだ眼差し。
それまで僕に媚びへつらっていた者達が手のひらを返した。
気狂いを排除せよ。
危険分子を排除せよ。
紫堂の真の跡取りは別に居る。
僕は誰にも必要とされていなかった。
僕は全てを失った。
否。
何も手に入れていなかったことに気づいた。
地位も名誉も家族も愛さえも。