あひるの仔に天使の羽根を
「!!!」
その時、順調に動いていた船体が、がくんと揺れた。
皆思う処は同じなのか、急いで2階に居る櫂の元に駆けつける。
櫂は――
呆然と海を見つめていた。
「どうした、櫂!?」
玲くんが長い髪を靡かせて、櫂の元に駆けつけると、反対側から煌と桜ちゃんが心配そうな顔で2人を見守る。
船が――大自然の嵐の力に煽られ、ぐらぐら揺れる。
「……玲。結界を張ってみろ」
一瞬、玲くんは目を細め、そして軽く目をつぶる。
1秒、2秒……。
玲くんに変化はない。
電磁波の光に包まれない。
「玲?」
煌が溜まりかねて、玲くんに声をかけると、
「力が……出ない。月長石も応答無い。何だよ、これ」
掠れた声で玲くんが言った。
「あれだ」
櫂は、目の前の、灰色でぼんやりとしたドーム状のものを指差した。
「厄介だな。
"約束の地(カナン)"は紫堂の力を弾くらしい。
力だけではない。腕時計見てみろ」
あたし達は慌てて自分の時計を見たが、全ての針が忙しく何回転もしている。
「磁場が……狂っている」
櫂は厳しい顔をしていて。
「……紫堂の力を弾いたのは、過去1人」
「……藤姫……あの儀式の間か」
玲くんが堅い声で応えた。