あひるの仔に天使の羽根を
煌さえも笑いながら、簡単に出口に行く着く。
2人は煌に手を差し伸べて、そして煌は芹霞に片膝をついて手の甲に唇を押し当てた。
それをただ見ているしか出来ない僕。
僕は何?
僕の存在は一体何?
あまりの怒りと恐怖に――
全身の血が迸るように噴出した。
赤く染まる視界。
気狂いの血に塗れる僕。
どんなに手を延べても芹霞は振り向かない。
櫂の元から離れない。
櫂が離さない。
――戻っておいで。
不意に聞こえる女の声。
――私の可愛い玲。さあ戻っておいで。
それは僕の存在の根底を覆すもので。
それは"混沌"。
僕を果てに引き摺り込もうとしている母の声。
同じ血を失っても尚、迫り来る母の誘惑。
寒い。
寒い。
寒い。
僕は孤独で。
――オカアサンガイルワヨ。
僕は弱くて。
――オカアサンガマモッテアゲル。
鏡の中の僕が、母の顔になる。
手招きする。
――モドッテオイデ?
僕に――此の世の居場所がないならば。
――ワタシダケノカワイイレイ。
母の愛が僕を呑み込んでいく。