あひるの仔に天使の羽根を
僕は芹霞の可愛い唇に吸い寄せられるように、唇を重ねた。
柔らかい感触に、僕は声を漏らしそうになり――そして我に返る。
急速度で僕は理性にブレーキをかけた。
コンマ単位でもそれが遅ければ、僕は止まらなかったと思う。
「ふふふ、顔真っ赤だね、芹霞」
そう誤魔化して余裕ぶって笑ってみたけれど、僕の心臓は早鐘を打っていて。
ああ、そういえば僕は発作を起こしていたんじゃなかったっけ。
健常な心臓の動きが、尋常ではない早さを示すことに疑問を抱かなくて。
こんな状況で、キスはやばい。
今まで抑えていた"僕"が暴れ出しそうだ。
理性も擦り切れる程堪え忍ぶ僕に、きっと芹霞は気づいていないだろう。
それが無性に苛立って。
もっともっと僕を見て欲しくて。
ありのままの僕を感じて貰いたくて。
「駄目だよ、芹霞。勝手に男のベッドの中に入ってきちゃ。これ以上のことされても文句は言えないよ?
僕以外の処でこんなことしちゃ駄目だからね?」
1つのベッドで抱き合うのはどうか僕だけにして欲しい、そんな願いを込めて。
「教授料ね?」
芹霞が意識を飛ばした。
鼻血まで出してしまったようだ。
駄目だ、何か笑えてくる。
僕は手の包帯で、芹霞の鼻血を止めながら、くすくす笑ってしまった。
意識してくれてる、と思っていいのだろうか。
僕が君に愛を見せる度に、こんなになってしまうのであれば、僕はこの先に進むことが出来ない。
僕の心の内を見たら、芹霞はどう思うのだろう。
煌が香水女にしでかしていること以上のことを、僕が芹霞に望んでいることを知った時には。
僕は君にとって安全圏な男じゃないよ。
それに早く気づいて?
僕は微笑みながら、芹霞の頬に唇を寄せた。