あひるの仔に天使の羽根を
「無関係だとは言い切れまい。
大体、先刻の刺客とて紫堂の力は役に立たなかったのだから。
俺達が向かう場所に、既に対紫堂処置が成されているなんて、偶然と言うにはできすぎだな」
櫂は不敵に笑う。
「悪いが、俺の力はここまでだ。
紫堂の力が使えないのなら、玲の結界もあてにはなるまい。
――芹霞」
櫂に呼ばれ、あたしは駆け寄った。
「恐らく、目的地目の前に船は沈むだろう。
お前は俺から離れるな」
憂いを含んだ切れ長の目は真剣で。
「俺から――離れるんじゃない」
命令のように、懇願のように。
あたしはゆっくり頷いた。
船がかなり大きく揺れる。
「……ふう。救命具を取りに行く時間もないらしいな。各々自力で脱しろ」
そして―――。
一際大きい波が襲いかかってきたかと思うと――
船は垂直状態にまで揺すぶられ、
「息を思い切り吸っておけ!!!」
あたし達は海の中に叩き付けられた。