あひるの仔に天使の羽根を


「……あのぉ~」


また煌が手を上げた。


「隣で繰り広げられてるいちゃいちゃが、すっっっっっげ~、むっちゃくっちゃにムカついてムカついてたまんないんですが~ッ!!」


かなり苛立ったような褐色の瞳と、刺々しいその声に、


「判った判った。煌は妬いたんだね。はい、お前も撫でて上げるよ?」


にっこり笑って橙色の髪を撫で上げれば、


「違うッッッッ!!!!」


真っ赤になっていきり立ったから、その場は笑いに包まれ、空気が穏やかになった。


あの煌が。


芹霞を前に独占欲を口にしている。


不機嫌なんだろうけれど、今までにないさっぱりとしたような爽やかなその表情が羨ましい。


芹霞を見るその顔が、いつも以上に精悍で男らしく感じるのは僕だけだろうか。


芹霞を愛しそうに見つめるその眼差しが、その所作が、色気が漂っているのに芹霞は気づかないのだろうか。


僕の容姿では持ち得ない、"男"以外の何者でもないその姿。


煌は、その逞しい肉体でどう芹霞を包み、想いを告げたのだろう。


――だ、だから言っただろ!? これからはお前1人だって……。


煌も芹霞を抱きたいんだろう。


そうだろうな、あいつも耐えているものな。


芹霞は何て答えたのだろう。



ああ――。


胸が嫉妬に焦げ付いて、苦しい。



僕も告げたい。


僕の胸を切り開いて、どんなに芹霞を想っているのか訴えたい。


だけど告げて、今以上の嫉妬と独占欲に"僕"の気狂いが目覚めたら、また芹霞を怯えさせてしまう。


僕は――どうしたらいい?


僕は、いつまで優しく笑っていられる?


いつまでこの想いに耐えていられる?


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