あひるの仔に天使の羽根を
「――で、月がどうしたって?」
ぶっきら棒に煌が話を戻した。
もう正座ではない、いつものようにリラックスした胡坐だ。
僕は"月"という名前に顔を引き締めた。
「無事だったんだけれど――様子がおかしいんだ」
「おかしい?」
褐色の瞳が細められる。
「確かに僕は女装はしていなかったから僕のことが判らなかったのかも知れないけれど、小さな鎌振り回して、僕は一方的に切り刻まれた」
「き、切り刻まれ…!!?」
芹霞が短い悲鳴を上げる。
「あ? 月がお前を!!? 何でだ!!?」
「判らない。だけどどう考えても……」
――食べていい?
「僕を食料と看做していた」
部屋が静まり返る。
「すんげ~判らないんだけれどよ。確かにあのチビ、尋常ではない運動能力持っていたがよ、玲が"一方的"って何だよ、それ」
煌はがしがしと頭を掻いている。
「僕……また発作が起きたんだ」
すると、ベッドの縁に腰掛けていた芹霞が慌てて僕の元にすっ飛んできた。
「ほ、ほほほ発作って!!! 玲くん、寝てないと!!!」
どうも芹霞の中で、僕の発作はトラウマになっているらしい。
「ああ、こんな時陽斗の魔法の救急絆創膏があれば……」
おろおろし始めた。
「大丈夫だよ、芹霞。もう落ち着いて何ともない」
「え!!? 今回は軽くで済んだの!!?」
「………。そんなに軽くはなかったはずだ。
だから――。
僕の身体に残る微かな気。これは恐らくだけど――」
その時煌が僕に向けて何かを親指で弾き、僕の手は反射的にそれを掴んだ。
それは――
「……氷皇、だろ」
五皇を示す、青い蓮の柄の小さなバッチ。