あひるの仔に天使の羽根を

・虚像 櫂Side

 櫂Side
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樒が消えたと思われる場所。


傍目では周囲の風景を構成する一部にしか過ぎず、違和感はない。


少し足を伸ばせば切り立った崖。


見下ろせば波が押し寄せる海。


建物から眺めていた波打ち際は、遠近法による目の錯覚だったのか。


しかし何故崖だ?


海は、"混沌(カオス)"でも見た。しかしあの場所は崖はなかった。


「一度……地形を再確認してみないと駄目だな」


俺はそうぼやきながら、再び樒が消えた場所に赴く。


短く刈られた草木が、少しだけ踏みつぶされたようになっている箇所。


俺はその部分に手で触れてみる。


感触の違和感。


やがて何かの溝を指先に感じて、なぞってみる。


「……ここか」


指をひっかけるような小さな突起。


それに手を掛けて捻ると、カチャリと音がした。


地面であったその部分が自動で横にずれ、中には階下への階段が見える。


俺がそこに降り立つと、隠し扉は頭上で自動で閉じられた。


自動ということは、電気でも通っているというのか。


冷たさを伝える石の壁には、所々明かりが点っていて、歩くのに不自由さはない。


明かりは――電灯……やはり電気が通っている。


足音を立てないように注意して歩いて行けば、


「……石の扉」


開いたままなのは、開けた主が先に居るからなのか。


だとしたら樒も、闇の力を操ることが出来るというのか。


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