あひるの仔に天使の羽根を


「許さない。

あの女を絶対許さない!!!」


その激しい憎悪に、聞いている俺はぞくりとしたものを感じた。


"あの女"とは誰だ?


何か確執があるんだろうが、


――せり。


まさか、芹霞に対してじゃないよな。


そういえば、樒と芹霞はまだ1度も対面していない。


会わせてはいけない。


俺はそう思った。


俺の考えすぎであるならそれでいい。


だけど、もし僅かな確率でも、芹霞と刹那の"何か"に樒が反応するならば、恐らく芹霞は無事ではいられまい。


樒の憎悪は異常過ぎる。


俺がいつもの如く隣に居られれば……。


だけど拒まれた今となっては、いつどんなタイミングで、芹霞が俺の手を擦り抜けるのか判らないから。


どんなに俺が手を差し伸べても、芹霞がその手を取らないのであれば。


「――……っく!!!」


その前に何とかしないといけない。


俺は。


芹霞を遠くに放つ為に、今此処に居るわけではない。



そう思っていた時、鐘が遠くで鳴り響いた。


"約束の地(カナン)"で初めて聞く鐘の音。




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