あひるの仔に天使の羽根を
思った通り。
戦闘態勢に入った玲くんはいつもの如く、ふわりふわりと舞うように優雅に、それでも急所には的確に手刀を入れて男達を倒していく。
男達の攻撃は1度も玲くんに入ることなく、掠めることすら出来ず、気づけば玲くんの周りには意識ない男達の山が積み上げられて。
7人に5秒もかかっていない。
玲くんは余裕だ。
息1つ乱していない。
あたしは、唖然としたまま固まっている少女の肩をぽんと叩くと、
「こんなの序の口。行くよ」
そう促した。
3人で外に出れば、煌が倒した黄色い神父が道脇に連なっている。
「何だよ、僕にも残しておいてくれればいいのに」
そう玲くんが笑うと、
「……なあ、玲。お前今、月長石、使えるか?」
煌はそう言って、偃月刀を見せた。
「"混沌(カオス)"では俺の守護石は顕現出来なかったのに、ここに来る途中で出来ることに気づいたんだ。"いつから"なのか"どの場所で"かは判らねえけど」
玲くんはぽんぽんと服を叩き、溜息をついた。
「……嫌になっちゃうね。氷皇は、ズボンのポケットに忘れず入れておいてくれてる……」
右腿にあるポケットのチャックを開け、中から見慣れた白い石を取り出す。
「ん。微かな反応はあるんだけれど、此処には電気が少ないからね。どの程度使えるのか試したくても、エネルギー切れで具合が判らない」
玲くんは苦笑する。
「もし、煌みたいに守護石の力が戻っているのなら……なあ桜、どうだった?」
玲くんは顔から笑みを消し、真剣な顔をして煌を見た。
「あいつ…倒れたんだ、櫂の前で」
「え?」
その場にいなかったあたしは、驚いて声を上げた。
「そこまで桜ちゃんの具合、悪かったの?」
あたしと話していた時では、そんな倒れるくらい酷そうには見えなかったけれど。