あひるの仔に天使の羽根を
「……あんな強い鎮痛剤飲んでも効かないなんて……寝てろって言ったのに、無理に動いて悪化させたな。まして櫂の前で倒れたというならば、相当重症だ。
元々桜、薬全般に対して免疫がありすぎるんだ。薬物の耐久性高める為に、色々試しすぎて"薬"というものに抵抗力がつきすぎてる。だから普通以上に効きにくい身体なんだ。
……僕の結界で回復させない限り、絶対安静は必須だな」
玲くんは腕を組みながらそう呟いた。
「"神格領域(ハリス)"戻って電気集めてみるか?」
「いや……桜を治療するだけのもっと多くの電力が早く欲しい。
煌、心当たりがあるんだけれど僕はそっちに向うから、芹霞とこの子連れて櫂の元に戻ってくれないか?」
「やだ」
あたしは玲くんに首を振って反対した。
「あたし、櫂の処に帰りたくない!!!」
「……え?」
意外とでも言いたげな訝しげな鳶色の瞳を向けられ、あたしははっとして曖昧に笑う。
「だ、だってさ、あたし玲くんを迎えにきたんだから、玲くんも一緒じゃなきゃ帰れないし」
「……ねえ、芹霞」
突き刺すような鋭い鳶色の瞳。
やばい、ばれそう。
須臾と櫂が一緒に居るのを見たくない醜い気持ちとか。
櫂を理解出来なくて、暫く離れていたい気持ちとか。
自分でもどうしていいか判らない櫂へのぐちゃぐちゃな気持ち。
聡い玲くんは昔から、あたしの変化を直ぐに見破る。
今。
もしも玲くんに見抜かれてしまったら、あたしはこの場で蹲りわんわん泣いてしまうに違いない。
櫂と同じ血を持つ優しい従兄に甘えまくって、面倒臭い重い女に成り果てる。
これはあたしの問題だから、誰にも迷惑かけられない。
あたしはまだ弱さを克服出来ないから。
まだ現実に還りたくない。
まだ櫂を見たくない。
「こ、煌もそう思うでしょ、玲くんと一緒に帰りたいよね? だから皆で電気集めて帰ろうよ、ね?」
褐色の瞳も鋭く、あたしの誤魔化し笑いに反応なく。
いつも鈍感の癖に、こういう時は違うのか、煌!!?