あひるの仔に天使の羽根を

桜色の和装姿だが、帯止めは式典時と同じ…恐らく金緑石。


「お、おはようございます、紫堂様」


にっこりと笑うその笑顔が痛々しい。


「あの…昨日は大変失礼致しました」


取り乱したことか、倒れたことか、その両方なのか。


「いや……」


そう言うことしか出来ない俺。


その後は重い沈黙が続いて。


居心地悪い俺は溜息をついて、踵を返そうとした。


元より用事があってここに訪れたわけではない。



「お待ち下さい、紫堂様!!」


須臾が……後方から俺に抱きついてきた。


俺は目を細めて、腹に回され組まれた小さな手を解く。


すると俺の背中でいやいやという声と、実際頭を横に振っているのだろう須臾の感触が伝わってくる。


「…紫堂様の…永遠を…私に下さいませ」


か細いけれど、はっきりとした意思が伝わる声。


そこに漂う情感に、これが芹霞であればどんなにいいだろうと思った。


芹霞であったなら。


だけどこれは――。


「他の男に頼め」


芹霞以外、俺には無理だ。


俺の身体が断固拒否をする。


「嫌です」


しかし須臾は、反対に力一杯抱きついてくる。


「俺の永遠を捧げる女は、お前じゃない」


びくっとしたはっきりとした震えを背中に感じる。


親切を仇では返したくなかったが、仕方がない。


今まで俺の拒む態度を須臾が見抜けずにいたのなら、この際言葉ではっきりさせた方がお互いの為だ。


俺は、おかしなことに巻き込まれて動きを縛られるわけにはいかない。



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