あひるの仔に天使の羽根を
「樒に俺を解放するように言ってくれ」
今見てきたばかりの異様な光景の主役は、異常な程"刹那"に執着していた。
そして彼女が切に望むものが俺に関係するというのなら、
これ以上の深みに入る前に矛先を変えておく必要があるように思えた。
その為には、起因となった娘からの口添えが不可欠だ。
「俺もその仲間も、対象に考えるな」
そう釘を刺して。
すると、するりと須臾の手が俺から遠のいた。
苦しげな呻きのような声が漏れ出すのが聞こえる。
多分俺は――
須臾を軽んじていたんだと思う。
須臾は弱い女だから、強く言えば最終的には従うと。
それは傲慢にも似た主観だったのかもしれない。
「嫌」
そう顔を上げて俺を見る眼差しは、予想に反して強い光がこめられていて。
「私は美しいものが好きなの!!」
何故俺は――
従属出来ると思ったんだろう。
「私は絶対美しいものを手元に置く。
どんなことがあっても私は紫堂様を離さない!!」
ああ――。
最初から俺に向けられていた眼差しは、俺という個人ではなく、俺の外貌への執着だったのか。
そして今、欲にぎらついたその眼差しは
樒が見せていた――狂気そのもので。
「あはははははは!!!」
須臾はのけぞるようにして突然笑い出した。