あひるの仔に天使の羽根を

「昨日石で未来を視て――それで判ったの。

彼女は昔から決まった運命の相手が居る。

だけどそれは紫堂様じゃない」



――もし神崎様に忘れられぬ方がいるのだとしても?


――ただの"代わり"のくせに、出過ぎた真似するから。



「彼女に期待しているなら残念ですね。今の彼女は、本当の彼女ではないですもの。そして近い内、彼女は全て思い出すでしょう」


――もし貴方の思われている神崎様が、"偽り"だとしても?


「紫堂様は、彼女の運命の相手ではない。

その兆候、あったんじゃありません?」



――離れていよう?




俺の肩に手をかけて、艶然と笑うその姿。


それは俺が今まで目にしていた嫋やかさはなく、


まるで肉食獣のような飢えた獣の目――。



「彼女も選んでいるんですわ、無意識に」



――ありえないよね、せりだって判っている。それがお前の限界。



俺は動くことが出来ない。


考えることも出来ない。


頭がぐらぐらとして、気持ちが悪い。


須臾の言葉を一笑に付すことが出来ない俺は、不安定な現実に足下を掬われ、ただただ不安だけを膨張させていて。


周りが見えなかった。



首に回される須臾の手。


耳元に近づく真紅の唇。


それは悪魔の囁きの如く。



「"ねえ、櫂。あたしが欲しい?"」


目が合った瞬間。



金緑石が俺の目の前で振り子のように、左右にゆっくりと揺れ――



須臾であった女は――


芹霞になる。





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