あひるの仔に天使の羽根を
 

なあ芹霞。


櫂がいい男だって、お前判っていたよな?


女がうざい程近寄るって、見知っていたよな?


今更、あの女が櫂に迫ったからって、どうしてそんなに気分を害すんだよ。


どうして香水女に対しては、そんな反応になってくれねえんだよ。



これ以上――


俺と櫂の違いを見せつけるな。



俺は堪らず、芹霞から顔を背けた。



こんなに好きなのに。


俺の痕跡を、芹霞に残したくて必死なのに。


芹霞がこんなにも悲壮な顔で考えているのは、櫂のことばかりで。


俺が居るのに。


頑張ってお前に好きだって告げたのに。


俺の姿は、芹霞の脳裏からは消えている。


覚悟の上とはいえ、辛いもんは辛いんだ。


「芹霞…おいで?」


玲が静かに芹霞の前に立ち、両手を拡げて芹霞を抱きしめた。


俺は玲に文句を言いかけて、動きを止めてしまった。


玲が――


酷く傷ついた凄惨な顔をして、微笑んでいたから。



そう……だよな。


俺が気づいて、玲が気づかない筈ねえもんな。


玲が、何も思わない筈ねえもんな。



だから――


見逃してやることにした。



俺の心は玲にしか判らない。


そして玲の心はきっと俺しか判らない。



奇妙な連帯感は、この場限りにして欲しい。




切ねえよな。




惚れた女が、違う男に近づく女を、ここまで嫉妬するのをただ眺めているなんてさ。



すげえ、櫂が羨ましいよ。


……妬ましいよ。

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