あひるの仔に天使の羽根を
「ナンバー193、刹那様のお手伝いに参りました。後方他3人は私の知り合いです、刹那様にお目もじお願いいたします」
ナンバー193って…だから"イクミ"か?
笑っちまうよりも、数字の呼称に何とも複雑な気分だ。
俺だって、昔数字で呼ばれていたからな。
数字で呼ばれるってことは、人間扱いされてねえ証のようなもん。
此処も、そういう世界なんだろうか。
そんなこと考え込んでいたら、目の前では模様のような赤い線がやたら早く点滅していて、
『ナンバー193、照合完了。通行許可』
そんな機械の声が響くと同時に、赤い線が長方形の切れ込みを作り、ウイーンという音をたてて、その面が自動ドアのように横にスライドした。
「刹那様から許可が出ました。皆さんもどうぞ」
玲がまず入り口に立った途端、忙しく赤色が動くだけで暫く反応がなかったけれど、
『1人目照合登録開始。名を告げよ』
何とも偉そうな無機質な声が聞こえてきた。
「指示に従って、登録して下さい」
イクミに従い、頷いた玲が名前を告げると、
『登録完了。2人目称号登録開始。名を告げよ』
そう機械音が響いた。
名前を告げれば完了するなんて、呆気…というより味気ねえ。
芹霞も難なく通行許可がおりた。
俺は――正直ドキドキしていた。
片手には顕現している偃月刀を握ったままだったし、トゲトゲでは入場を拒否されたから、ピアスを捨てない限りはまた無理かもと心配していた。
だけどそれはただの杞憂にしかすぎなかったみてえで、俺も名乗っただけで簡単に通行許可を頂けた。
いいのかなあ、こんな簡単で。
そう思っていた時、
「瞳孔、指紋、声紋の完全一致なんて、この建物は随分と厳重警備だな」
玲がそう呟いているのが聞こえた。