あひるの仔に天使の羽根を
建物の中は、意外にも2階建ての普通の住居らしい。
1階は台所兼リビングで、まるで1つの部屋のような広々とした台所が視界に入れば、
「すごっ、外国のキッチンみたい」
芹霞が感嘆の声を上げて台所の空間に駆け寄り、辺りを見渡しながら色々な処を手で触っている。
ワインレッドの重厚感ある木製のキッチンはまるで骨董品のような年代を感じさせるようなもので、繋がったマーブル模様の大理石の天板が壁一面に続き、端から端までかなりの距離がある。
上方にあるキャビネットや中央におかれた調理台は、キッチンと揃いのもので、繊細な彫刻などを見れば、安価なものじゃねえことは俺でも判る。
食卓は天板と同じ大理石製の大きいものだ。
「羨ましいな、オーダーメイドかな。こんな広いスペースに、これだけ広い調理台や設備揃っていたら、毎日の料理が楽しくでいいよな。ね、煌。神崎家のキッチンになんて小さいもんね?」
芹霞が俺に同意を求めるが、その時の俺の頭の中は芹霞との未来を夢見ていて。
こんな処に立つ新妻の芹霞が、フリフリのエプロン着ておいしい料理を作ってくれたら、俺最高かも。
まあ、芹霞が居れば何処でもいいけれど。
でも未来の設計図として、芹霞にはいい台所が必須条件だということが判って嬉しかった。
その時、玲の声が耳元で囁かれた。
「ねえ煌。
料理が出来る器用な男って、得だと思わないか?
教えて上げるフリして、後ろから色々な処触れるし。
知ってるよね? 今でも芹霞の料理の先生って、僕なんだよ?」
「~~ッッ!!! 玲お前いつもそんなことしてんのかよッ!!?」
しかし玲は、変な顔をして俺を眺めていた芹霞に微笑みかけて雑談を始めてしまった。
何だよ、玲は普段からそうやって土台固めていたのかよ。
何だか悔しい。
俺…料理、覚えようかな。