あひるの仔に天使の羽根を
そう思ってしまった時、イクミの声が聞こえてきた。
「あれ……おかしいな。水回り…使った形跡がないし、食卓も埃被ってる。
刹那様…ちゃんとお食事されていたのかな……」
玲が、鋭い目をして訊いた。
「今までもこういうことはあったの?」
「お仕事に夢中になりすぎて、2階の書斎から出てこられないことはしょっちゅうありました。そういう時は、お食事を部屋の外に置いておくんです。後で見てみると、空になっていますよ」
「2階は書斎だけ?」
「書斎兼、刹那様の寝所兼、お嬢様の寝所です。壁がないので」
「じゃあ今は2階にいらっしゃるのかな?」
「……と思います」
そう言った時、玲が俺に囁く。
「凄まじい電力が2階から来ている。そこで力を石に注入出来たら、多分桜は回復出来るはずだ」
刹那っていう奴に会うつもりだ。
まあ、そいつの家なんだから仕方がねえことかもしれないけれど、
やっぱり"刹那"ってのに会うのは気分悪い。
玲が、キッチンを拭くイクミに声をかけている。
後方でそれを眺めながら、俺は妙な窒息感に目を細めた。
息苦しい。
そして気づく。
台所も食卓も。ここから眺められる骨董品で飾られたリビングも。
窓が1つもねえ。
だから思っちまう。
箱だ、箱。
この家は、まるで監獄のような箱だと。
この手の窒息感は、最近味わったような気がする。
何だっけな。
「ああ、あの女…須臾だとかいう女の部屋だ」