あひるの仔に天使の羽根を
「質量によって重力が発生するメカニズムを、重力子(グラビトン)という素粒子に求める重力子学……刹那は、その素粒子を研究し、人工的に重力を発生させようとしていたみたいだね。
より強大な重力を発生させようとすると、ブラックホールのような吸引性の強いものが必要になる。だけどそれでは重力を制御出来ない。…その解決方法を研究してたみたいだね、パソコンに色々な論文や資料が入っている」
玲くんはいつの間にやら机に移動し、机の上に長い片足を掛けて、置かれていたノートパソコンを操作して画面を見ている。
そして目を細め、手の動きを止めた。
それが奇妙に思えて、あたしと煌はまた一緒にその画面を覗き込む。
「玲、何だこの、のたくった文字は」
「記号のようにも見えるよね」
画面には見慣れない細かな…図形のような文字のような奇妙なものが並んでいる。
そんな時、イクミが不安げな顔をして戻ってきて、そして今度は左側の通路に歩み、また戻ってくる
「居ないんです、刹那様……。しかもお嬢様の姿もないんです」
そう言った。
「お出掛け中かもよ?」
イクミは首を横に振った。
「ありえません。刹那様は外出がお嫌いなんです。第一、太陽の光に当てられないお嬢様を連れて外に出ることは、絶対考えれません」
病気だったんだ、娘さん。
「機械室かな…」
そんなぼそりとした呟きを玲くんが聞き逃すことがなく。
イクミを先頭に、書斎の左から隣の部屋に移動する。
――はずだったんだけれど。
再びあの黒い分厚い扉が行く手を遮り、イクミは傍に設置されている小さな箱に向って、3回の認証を始めた。
今更だけれど。
あたし達の認証は必要がないらしい。
身元がはっきりしているイクミの認証より、あたし達の認証の方が不可欠のように思えるんだけれど。
部屋に入れば熱気の渦。
素人でも感じられる凄い電磁波だ。
それもそのはず、四方八方コンピュータの信号が色取り取りに点滅し、何かが作動している重い音が轟いている。