あひるの仔に天使の羽根を
 

「ところで。此処にも刹那親子がいないとなれば……他に部屋はないの?」


イクミは途端に暗い顔に戻る。


「見れる処は全て見ましたが、何処にもいらっしゃいません」


「……誘拐されたとか?」


あたしの呟きとほぼ同時に、玲くんが机の上一面に拡がるキーボードを、凄まじい早さで打ち始めた。


途端に大きい画面で点滅していたカーソルは、0と1とアルファベットを生み出して、左から右へ、上から下へと流れ行く。


一体、玲くんが何を打っているのか、何をしようとしているのか見当すらつかず、超速度で羅列する英数字をぽかんと眺めているだけのあたし達。


やがて玲くんの手が止まると、数秒の沈黙後、大画面には怒濤のように英数字が流れ続け、画面横にあるサブモニターには、電源が突然ついて、色々な角度からのイクミが映し出された。


「この部屋を開けるには、ここのコンピュータに登録許可された者の認証完全一致がなされねばならない。認証時には、認証者が撮影されているんだ。

見てご覧。全てイクミばかり。右下の英数字は、個人を判別する識別コードだよ。どの画面も同じだよね。過去を遡ってみたけれど、イクミ以外の人物は撮影されていない。このモニターの左下の部分に、認証日時が記録されているんだけれど、今を除いて此処が開いた最終時は――3ヶ月前だ」


「3ヶ月前は……確かに私が最後に刹那様とお会いした頃です。お仕事に集中したいから、祭が始まる頃まで近づかないよう、言われていたので」


「でもよ、刹那も娘も此処には居ないということは、外に出たってことだろ? どうして撮影されてないんだ? あれか、故意的に撮らないように設定してたとか」


「と思ったんだけれどね、そうした指示がプログラム内には見当たらない。それからね、ここのセキュリティシステムは、1認証1人の通過しか認めていない。だから複数人が固まって中に入ろうとすると、恐らくあの扉で押し潰されるだろう。運良く中に入れたとしても、それなりの防犯機能はついているから、無事ではいられない」




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