あひるの仔に天使の羽根を
途端、わき上がる1つの疑問。
「れ、玲くん……あたし達が入れたのは何故?」
「……ん。不思議だね」
にっこり微笑む玲くん。
……紫堂の力でプログラムを書き換えてしまったのか。
「認証登録者はイクミと刹那2人のみ。娘のものは登録されていない。もしも認証の痕跡を消せることが出来るのだとしたら、機械を使う限り、その証拠が必ず何処かにあるはずだけれどそれもない。
此処の機械は、恐らく"約束の地(カナン)"の全ての電力を統制しているものだ。電気が走る処は全て此処に記録が残っているんだ。
無論此の家の電力も水道も使用痕跡が判る。
だけどね、例えば書斎のパソコンは以前は毎日頻繁に使用されていたのに、3ヶ月前を境にその形跡がないし。水すら使われていない。
機械の故障はない。今だって正常に動いている」
では、何処に行ったというのだろう。
機械で閉ざされた密室の中、どうやって抜け出せたというのか。
「ねえ玲くん、ずっと画面が動きっぱなしなんだけれど、大丈夫?」
大きい画面は、文字が流れ続けている。
何だかそれを見ているとくらくらとしくる。
眼精疲労なんだろうか。顔が火照ってくる。
「ちょっと調べたいことあったんだけれど、思った以上に時間がかかるね。ねえ、イクミ。その間に娘さんの部屋、連れていって貰えないかな?」
突然の玲くんの申し出に、あたし達はぞろぞろと書斎まで戻り、娘の部屋に連れて行って貰った。
「此処です」
一瞬――
「!!!」
幻覚かと思った。
一面ピンク色に彩られた部屋。
人形で覆い尽くされた部屋。
奥の壁際にあるのは、大きな天蓋のついたベッド。
「あの女の部屋、そのまんまじゃねえかよ」
煌が嫌そうにぼやいた。