あひるの仔に天使の羽根を
 

「なあ、そう言えばその娘の名前って何だ?」


煌の声。本当に今更だけど。


「ああお嬢様の名前はとても言いにくくて。

ええと、確かシ……シキ……」


「シキミ?」


無機的にも聞こえる玲くんの声に、イクミはすっきりした顔で頷いた。


「はい、そんな名前だったと思います」


途端に曇る玲くんの表情。


「……どうした?」


「いや……各務家当主の名前と同じなんだ。樒なんていう名前、滅多にあるものじゃないと思うんだけれど」


だけど――


「同一人物なんてありえないじゃない。普通に考えて」



玲くんは何か考えているようだった。


ふう。


何だか身体が汗ばんで熱い。


身を捩ると、胸が再び引き攣って痛くなる。


やばいな、とは思う。


今どんな状態になっているのか覗き込む勇気は無いけれど、それでもべとべととした不快感が嫌だ。


ふと目線を入り口に向ければ、向かい合わせになるような位置に見えるのは、多分バスルームだ。


洗浄してすっきりしたいな。


そうは思うけれど、言い出せない。




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