あひるの仔に天使の羽根を


「どうせ。あんな傷如きで、諦めるつもりはないんだろう、煌も」


「……ああ」


僕達は視線を合わせない。


合わせられないんだ。


互いの気持ちが、痛い程判るから。


結局。


芹霞がどんな姿であれ、僕達が求める芹霞には違いないから。


きっと煌も思っている。


いっそ芹霞が見られない程に酷く醜くなってくれたら。


世間が芹霞の存在を排除してくれたら。


そうすれば、芹霞は自分だけのものになるのではないかと。


その時こそ僕は安心して、芹霞が永遠に自分だけのものになったと公言できるのに。


櫂から"永遠"を奪えるのに。


欲しいのは、身体よりも心。


傷如きで、僕の想いは揺るがない。


「……芹霞…、お前にだけは傷を見せてたんだな…」


ぼそっと煌が呟いた。


「俺でも櫂でもなく、お前には許してたんだな……」


それは泣きそうな程に切ない声で。


「俺……マジ、こんなんなってるなんて知らなくて…」


「僕が…見せてって頼んだんだよ」


思わず事実を告げてしまったけれど。


そう、医者としての権威をちらつかせて、芹霞にとっての特別な存在になろうとして。


「………。同じことだろうがよ」


そして煌は再び俯いて、今度は黙り込んでしまった。
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