あひるの仔に天使の羽根を
「お前さ、こんなにでかい機械あるのに、どうして使うのはちっこいそれよ? つーか、先刻まで流れていた大画面の文字…消えてるけどいいのか?」
不思議そうに画面に覗き込む煌。
機械に対して一定距離を保つのは、煌が触れた機械は皆火を噴くからだ。
紫堂の力を煌が持てたら、煌は間違いなく"火"の属性だろう。
それを見抜いた白の陽斗は、徒者(ただもの)ではないと思う。
「此処の機械もう僕には使えない。というより、使えるようにするには、由香ちゃんの補助があってもかなり時間がかかりすぎる」
「あ?」
「少し目を離した隙に、僕の書き換えたコード全て無効化されていたんだ。僕のコード変換を上回る早さでね。先刻、コードが自動増殖する…ウイルスのようなコードを忍ばせて、出来るだけ早く多角的に、実はここの宗教"鏡蛇聖会"とここの地形、そして刹那という人物について情報を集めていたんだよ。
芹霞の縫合が終わって此処にきた時、僕の痕跡が見る間に消えていっていることに気づき、全て消えきる前に慌てて書斎のパソコンにデータを…ごくごく一部だけどコピーしたんだ」
「でもそのパソコンも"機械"だろ? また無効化されたんじゃねえか?」
「……。急遽先刻僕が此処の機械の支配系統から分離させたんだ。つまりもう"約束の地(カナン)"の電力の支配下にない。今は僕のコード変換によって動く状態だ」
「先刻お前が発光していたのはそういうことかよ」
「そういうこと。このパソコンは小さいから、スペックが許す限りの働きしか出来ないけれどね」
「つまり今、此処には電力系統が2つあるってことか。どうすんだ? ここの機械、改変して乗っ取るのか?」
「したいけれど時間がない。芹霞の状態見て、そろそろ桜の元に行かないとやばいと思う」
僕の力を上回る機械なんてありえない。
突然――機械が豹変した。
2ヶ月前、僕と敵対した由香ちゃんが拡張した機械にはかなり手こずったけれど、元はといえば僕が作ったものが土台だった。