あひるの仔に天使の羽根を
後のことなど知るか。
私の慈悲を放棄するもしないも個人の自由だ。
その時、背後から先刻にも似た気配を感じて。
さっと身を捻ってそれを躱してそれを確かめてみれば、
「双月牙!!?」
そして。
金髪、金の瞳。
白い修道女がゆっくりと姿を現した。
私は糸を繰り、旋回する双月牙を糸で搦め捕ると、逆に持ち主に向けて投げつけた。
陽斗によく似た女は、いつものような冷たい表情を一切変えず、すっと伸ばした二本の指で双月牙を受け止めて。
対峙する私と女。
一触即発の、ぎりぎりの線を保っている。
来るなら来い。
私の手に裂岩糸が戻ったのなら。
私は誰にも負けない。
もうあんな醜態は曝さない。
そんな私の攻撃的な眼差しを向けた女は、私にくるりと背を向けた。
「逃げるのか!!?」
語気を荒げた私に、女は振り返りもせず少し足だけ止めて、
「……行かせてやる」
そう言うと、歪な黒い建物の前にある赤い絨毯の上に立ち、首にかけていた十字架を壁に突き刺して
「警戒態勢を解除」
そう言うと、開いたドアを顎で促した。