あひるの仔に天使の羽根を
だけど。
否――だから。
神と対を為す蛇が気になるのかもしれない。
無神論者が、自分が信じないものと相対したものに興味を持つなんて、かなりおかしなことだと思う。
思わず零れてしまう嗤い。
そして扉の十字架に背を向け、教会の門外に足を踏み出した時、その地面に夥しい血痕が残っているのに気づいた。
飛び散った痕。
溜まった痕。
引き摺られた痕。
これだけの血が流れたのなら、その主は無事ではないだろう。
"中間領域(メリス)"において一番崇高であるべき教会も、やはり血に塗れた不穏な場所なのだろうか。
付近には人影はない。
礼拝者も居ないらしい。
とりあえずあてもなく歩いていたら、突如前方の視界が揺らいだ。
反射的に物陰に隠れ、慎重にそれを見つめていると――
「!!!」
各務久遠が立って居た。
常軌を逸した破滅的な美貌は相変わらずで。
誰をも惑わすような妖麗な顔には、一切の表情はなく。
ただ、瑠璃色の双眸だけが青く瞬いて。
その凍えるような冷たさが、全てを諦観したような"虚無"の闇が……裏世界に名を馳せる私と通じる処があって、いや何より、そんな状況でも"崩壊"していない"存在の強靱さ"に、やはり彼は普通世界の人間ではないと思ってしまう。