あひるの仔に天使の羽根を
しかし――それも一瞬。
久遠の顔から、その瞳から……刹那に色は失われていった。
そして戻る――一切の虚無へと。
冷たい瑠璃色の瞳は、前方の一点を見据えていて。
そう、ただ1点――
芹霞さんを両手に抱いて現れた、玲様へと。
久遠の拳に力が込められた時、不意にその瞳が真っ赤になったように思えたけれど、再度見直してみればやはり瑠璃色のままで。
姿を大きくさせる玲様。
横には、見知らぬ女を肩に抱く馬鹿蜜柑の姿もある。
皆、無事だ。
「!!? お前、何で此処にいるんだよ!!?」
久遠を指差しながらの煌の怒鳴り声に、玲様の足も止まる。
対峙する、玲様と煌……そして久遠。
「オレが何処に居ようとお前に関係ないはずだ」
冷たい、瑠璃色の瞳。
「ふん、オレに土下座までして助けに行って、随分と無様だな、せり」
冷たい、冷たい…拒絶の言葉。
憤る煌を目で抑えて、険しい面持ちの玲様が訊いた。
「……煌、誰?」
「各務久遠。玲も見たろ、宴にいた放蕩息子」
玲様は鳶色の瞳を、瑠璃色の瞳に合わせて。
どちらもそらすことなく、真っ向から視線をぶつけ合う。
それは。
汗が噴き出るくらいの、剣呑な空気が漂っていて。