あひるの仔に天使の羽根を

橙色の髪をした少年が紙を拾って読み上げると、白皙の青年がそれを奪い取り再度その文字に目を走らせる。


「カナンって……やっぱり!! "あの人"の新作の『KANAN』!!」


「はあ!? あの人って誰だよ、玲」


「ん? 知る人ぞ知る、ゲーム界の神様。完成度の高い格闘ゲームを開発している、覆面プログラマーさ。僕、彼のゲームのファンなんだよ」


「プログラムなんてお前、敵なしだろうがよ」


「ゲームは別さ。1プレイヤーとして尊敬出来るんだ」


端麗な顔の青年は、先程まで殺気を飛ばしていたとは思えぬ程、子供のように目をきらきら輝かせている。


「『KANAN』って、彼が技術の随を懲らして作ったと言われる、天使と悪魔のバーチャルリアル系オンライン格闘ゲームなんだ。投影装置がある空間にいさえすれば、コントローラーだの媒介なしで、登場人物になったかのような疑似格闘体験が出来る。


その公式発表を兼ね、抽選応募者から20名、先行的に最大2週間ゲーム体験が出来ることになっててね、僕や由香ちゃんでさえも、どんな手を使っても券が取れなくて。何で緋狭さんがその券を……これは、もしかして見る側か? この際見るだけでもいい。それにしても、約束の地(カナン)と"KANAN"ってことは……。ああ、確かに彼のコードネームは"KAGAMI"だったか!!」


珍しく興奮気味の青年に、漆黒色の髪をした少年は苦笑した。


「各務翁が突如公開した閉塞空間"約束の地(カナン)"。"約束の地(カナン)"故の『KANAN』か、『KANAN』故の"約束の地(カナン)"か。ゲームが誘いなら…似ていますよね。2ヶ月前の……ブラッディ・ローズ。緋狭さん、貴方が危惧する起因はそこですか?」


「……聡いな坊。

今は無き藤姫は、"約束の地(カナン)"に隠居した各務翁と接触していたフシがある。

そしてその伝達役がシロ……私と同じ五皇が1人、"白皇"だ。そのシロが、半年以上も前から姿を眩ませている」


「…半年? 2ヶ月前、明治神宮で会いましたが?」


「ほう、お前達"影"に会ったのか。本人不在では示しがつかんのでな、公で五皇が出張れぬ時は、影がその努め果たす。お前達が影に会った時、既にシロは行方不明だ」




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