あひるの仔に天使の羽根を
・悪夢 櫂Side
櫂Side
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悪夢を見た。
芹霞が赤く染まる夢。
これは8年前の俺の記憶なのか。
それとも現実のことなのか。
芹霞を失ってしまう、ただそのことに怯えた俺は、
一心不乱に芹霞の名を呼び続けた。
気が狂う程、強く幾度も。
芹霞はそっと目をあけて、俺に言った。
「あたしは偽りの存在など必要ない」
その冷酷にも思える言葉と、その眼差しは。
少なくとも俺の知る芹霞ではなく。
いつも俺に向けている眼差しではなく。
完全他人の顔で。
「あたしが欲しいのは、貴方じゃないの」
俺の中の誰かを見ていた。
「求めているのは、
櫂じゃない――」
俺ではない、誰かを――。
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悪夢を見た。
芹霞が赤く染まる夢。
これは8年前の俺の記憶なのか。
それとも現実のことなのか。
芹霞を失ってしまう、ただそのことに怯えた俺は、
一心不乱に芹霞の名を呼び続けた。
気が狂う程、強く幾度も。
芹霞はそっと目をあけて、俺に言った。
「あたしは偽りの存在など必要ない」
その冷酷にも思える言葉と、その眼差しは。
少なくとも俺の知る芹霞ではなく。
いつも俺に向けている眼差しではなく。
完全他人の顔で。
「あたしが欲しいのは、貴方じゃないの」
俺の中の誰かを見ていた。
「求めているのは、
櫂じゃない――」
俺ではない、誰かを――。